六章『僕の腕の痛みよりも』
“第57話 群像戦術(予告版)”
黒く焼け、祭壇の瓦礫に埋もれた敵の姿。
もう、脅威はない。
最大火力の技を出し切ったロネは、大きく息を吐きながら振り向いた。
「ガキども。無事か?」
「…………」
少年少女は一様に、ポカンと口を開けている。
ロネは手にしていた短剣を鞘に戻し、首を捻った。
「……どこか痛むか? 痛むなら今のうちに言っとけよ」
子どもらに怪我があろうがなかろうが、どちらにせよ、診療所に行かなくてはならない。〈柿色の商会〉が居る場所まで向かえれば、あとは彼らに引き渡すこともできるだろう。
ひとりの赤毛の少女がつぶやいた。
「ほん、とうに、〈従隷〉?」
「……昔のハナシだよ」
フッと笑って、再び腕をまくる。
血が出てはいるものの、その右腕の烙印が偽物でないことは、一目見てわかる代物だ。
「コレは頼み……最後の命令だ。ナイフは置いてくれ。全員、安全な場所まで移動するぞ」
子どもらは、ロネの命令を聞き、素直にナイフを手放した。
ヴェルダムがつぶやく。
「ロネ坊。急いでルド坊の手当をしてやらねぇとまずいしよ、……」
「煌力鉱石は、貰わなかったか?」
「ルド坊は、採掘現場のリーダーだ。前に使ったことのあるようなハナシしてたぜ」
「そうか」
ヴェルダムはつぶやく。
「……あとよ、結界の核だろ? 確か」
ロネは頷いた。
ここに来た目的、そのもの。
「なあ。なんか、デッカい光る石ころみてぇなの、見てないか?」
幹部たちに聞いた情報をそのまま伝えると、子どもたちは、思い思いに教会の奥に視線をやった。
────……
壊れた祭壇の奥には、隠し通路があった。階段を降りた地下室に、それはあった。
「……コレか」
蒼色の光る、巨大な鉱石のような物体。近くに立つと途方もなく大きな波動を感じる。
ヴェルダムの手の爆薬が設置され──破壊された。結晶が砕ける。轟音。
光が弾け、都を覆う結界の煌力の流れがわずかに弱まった気がする。
任務は完了だった。ロネは子どもたちを見る。
「診療所まで運ぶ。約束する」
静かな声。子どもがうなずいた。
ヴェルダムにルドルフの身体を抱えてもらい、隣で肩を抱えてやる。
ロネは一度、大きく息を吸った。
吐いて……。仲間に核の破壊完了を伝えようと、首にかけた通信機の発話ボタンに手をかけようとして、やめる。
「邪魔しちゃならねェか」
苦笑して目を閉じる。遠くにいる、いつもの顔ぶれのことを思う。
──ボス。シエル。メアリ。レイさん。あとジジィ。
(……頼んだぜ!)
水の都の別の場所で戦っているはずの、仲間たちへ。
────ボスSide.────
南教会には、夜の風が吹き込み、張り詰めていた。
誰ひとり、動かない。
騎士たちは距離を保ったまま、警戒姿勢を崩さない。剣の柄に添えられた手。奴らの視線。その真ん前に、ボスは立っている。
ハイリ団長が問いかけた。
「守るべきもの。……それはまた、ずいぶん抽象的な言い方ですね」
女騎士の声は低く、よく通る。
どうやら『背負うもの』の答えが気に食わなかったらしい。
ボスは赤い瞳を細めて笑んだ。
「弱き民。若き子ども、富なき者──この国は愚かにも選民をするが、守るべきものは、“選ばれなかった者”の中にこそ居るんだよ」
沈黙が落ちる。
「そのためなら、貴方は、ひとつの国をも火の海にするというのか?」
「左様」
団長は視線を逸らさないまま、ほんの僅かに重心を前へ寄せた。
理解はしている。その上で認められない。そんな黒い瞳だ。
「そんなものは……間違っている……!」
「なるほど。相容れない、と」
ボスの指先で、銀のナイフがひとつ回る。刃が、光を細く反射した。
次の瞬間。
「行け!」
号令と同時に、騎士たちが一斉に踏み出した。
(第57話・予告版 2026/03/20 〆)
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