夕刻の手紙


六章『僕の腕の痛みよりも』


 
  

 ────ロネSide.────
 
 
 都の夜空に、映る爆煙。遠くで、爆発の音がする。帝国軍の空襲は結界に阻まれているはずだが、衝突の余波だけでも都市全体を震わせるには十分だった。足元の石畳は微かに揺れ、窓硝子が細かく鳴る。
 ロネは、通りの影を走っていた。
 都の西区画。やはりというべきか、人影はほとんどない。避難命令が出ているのだろう、多くの建物の扉は閉ざされ、街路は異様なほどに静まり返っている。
 その静寂の中に〈結界〉の膜の向こう側から遠雷のような爆発音が続く。
 ロネは足を止めない。背後からルドルフが小声で言った。
 
「……ロネ、教会、もうすぐと違うか?」
「わあってる」
「おし。さっきの爆薬の準備ならして……」
「ッ黙れ」
 
 ロネが走りながら片手で制する。
 ルドルフはもちろん、遮られたヴェルダムさえも怒らず、彼の言葉に無言で頷いた。
 通りの先には、石造りの建物があった。古い外観の教会。都の結界を構成する三つの核のうちの一つが、この中にある。
 
 正面扉は、固く閉ざされていた。ロネは周囲を一瞥する。
 やけに静かすぎる。……罠が来るしれない……が、ここで引く理由があるはずもない。
 
「行くぞ」
 最大級の注意を払いながら、古びた銀のドアノブに手をかける。押すと、軋んだ音とともに、ゆっくりと扉が開いた。
 教会の内部は、薄暗い。
 高い天井。長椅子が並ぶ礼拝堂。色ガラスの窓から、うす色の光が落ちている。
 
 祭壇の前に、一人の男が立っていた。
 公国軍の軍服。青の短髪。整った顔立ち。しかし、その目は今はひどく冷えている。
 男はロネを見た。口元がわずかに歪む。
 
「会いたかったよ、獣ども」
 
 小柄な男──ロネにとっては最も会いたくなかった男。
 テスフェニア公国軍、アークス少尉がそこに立っていた。
 
 
 
(第55話・予告版 2026/03/10 〆)
 – Next comming soon!!
 


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