夕刻の手紙


 
  

 ──戦争が始まってしまった。
 
 そう思ったのはいつの日だったろう。
 生まれたときから、世界のどこかで争いが起こっていた。
 どこかのお偉いさんの都合だったのかもしれないし、国や、民族同士の亀裂が大きくなる原因が、昔からあったのかもしれない。
 そんなふうに理由をつけながら、世界はずっと争っていて、人はいつも神に祈っている。
 
 とある幼い少年もまた、神に祈った。
 
『父さんと母さんが仲直りできますように』
 
 それは“家族という最小の集団”の争い解決のための、祈りだった。
 
 少年・シエルは、物心ついたときから、熱心に天に向かって祈っていた。
 なんでも、父が別の人を好きになって、母は気を病んでしまったらしい。だから、優秀でない子は、もう“要らない”のだと、ある日の母は言った。父もまた、お前が生まれたせいだと僕を責めた。
 
 少年にはもう、わからなかった。
 
 だれが被害者で、だれが加害者なのか。
 
 人は相手を好きだから、愛を誓うのだと、聞いていた。
 家族は支え合うものだ、と、教会のシスターは教えてくれた。
 
 村の家庭に響く怒鳴り声の背後に、巨大な爆発音が響いたとき、少年は思った。
 
 ──ああ、また、戦争が始まってしまった。
 
 テスフェニア公国の、一度目の襲撃。
 帝国育ちの少年の前に謎の銀髪男が現れたのは、その日のことだ。
 遠い日の記憶。もう夢か現実かも覚えていない、ただの夢まぼろし。
 
 
 
 ────……
 ──……
 
「これより、〈全軍遠征〉の作戦会議を始める!」
 
 結社のボスの声が響いた。
 今日、新たな争いが始まろうとしている。
 
 
 
 - Next comming soon!!




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